読書日記PNU屋

読書の記録

村上龍「半島を出よ」上・下

 
オンライン書店ビーケーワン:半島を出よ 上 オンライン書店ビーケーワン:半島を出よ 下2005.3幻冬舎\1,890,\1,995


北朝鮮の特殊な殺人訓練を受けた軍人たちは、たった9人で
九州福岡ドームを占拠した。九州にいついていた少年犯罪者集団は、
面白半分から戦いに参加していく。
 
物語は近未来、2010年からスタート。私は社会情勢について述べる
ことが出来るほど社会にコミットしていないし知識もないので、
あくまで物語として読んだ感想を書いてみたい。
北朝鮮の軍人たちの悲壮な決意というのは(メディアで報道される
北しか知らない自分には)リアルに感じられるのだが、どうにも日本の
ヒッピー風カリスマ詩人と、彼に心酔するはみだしっ子たちというのが
私には信じられない。リアルを感じられない、というのか。
あれだけ育ちが違い、人数がいるのにみながみなイエスマンなのが
リアルを感じない。従う相手が将軍様ならリアルで、
カリスマ詩人がアンリアルというのは読者の偏見のせいだろうか。
 
北朝鮮の特殊兵たちの生い立ちや心情については、著者が脱北した人に
取材したこともあってか迫力があるのだが、9人でのドーム占領から
フィクションめいてきてどうにもついていけない。ありえない。
まあ、小説なのだし面白ければよいので読み進めてみる。
命がけの特殊兵たちと腰抜けの日本政府の対比は面白いが、
著者が思い入れのあるらしきイシハラたちの物語が私にとっては
絵空事かつ退屈で読むのがつらい。非行少年たちが、キャラが立って
いないというのか、みな似たような雰囲気なのである。
似たもの同士集まったということなのか。彼ら少年たちに感情移入が
全く出来ないので、彼らが主役になる下巻はしらけてしまった。
とくにポリシーを持つものの残酷よりも、ポリシーなき若者の残虐の
方がよりタチが悪いということか。下巻それは顕著になり、
シロウトの私でもわかる兵法の基礎が、少年たちを有利にするため
だけに無視されてしまうなど、ご都合主義な展開が目立った。
上巻のチェ・ヒョイルのクライマックスまでは弩迫力で良かったのだが…。
こんな展開を迎えてしまうとは残念。
 
少数占拠の設定はエンタとして書けば面白くなりそうなのに、
ブンガクらしくしようとしてか少年たちの乱入で現実感を失って
しまったように思う。

p.s.もしかしたら、主役は北朝鮮ゲリラでも非行少年グループでもなく、
ここで表に出ることの無かったテロすらも他人事として流していって
しまう日本国民なのかもしれない。