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読書の記録

島田荘司「摩天楼の怪人」

 
オンライン書店ビーケーワン:摩天楼の怪人2005.10東京創元社\3,000


病床につく大女優ジョディ・サリナスは昔犯した犯罪を告白した…
しかし、それは不可能犯罪。だからこそ、ジョディは容疑を免れて
いたのだった。ミタライはこの謎を解けるのか!
 
美麗なカラー挿画付きの豪華な本格ミステリである。
著者「後書き」もあり製作過程やネタ元が知れて面白いのだが、
ネタバレしないよう最初から順序よく読むのがおすすめ。
 
ようやく、「ネジ式ザゼツキー」以来ようやくの御手洗潔復活である。
いちおうシリーズとしては石岡君が活躍する「龍臥亭幻想」が出ては
いたのだが、こちらではどうも作中世界にのれなかったのである
(それは私がカズミストではなくミタライアンのせいだけではないはずだ)。
 
それが本作では違った。しょっぱなから50年前の殺人が明かされ、
御手洗が挑戦を受ける…本作は、過ぎし日の名作群
占星術」「斜め屋敷」「暗闇坂」…etc.の流れをくむ、
大作にして傑作ミステリーなのだ。これでもかと起こる密室殺人や猟奇殺人に
またたくまに魅了されてしまい、ぐいぐいと引きこまれ、本の分厚さを
全く感じぬうちに読み終えることが出来た。挿話ひとつひとつにまで
煌めきを感じるつくりで堪能した。
 
また猟奇的犯罪を扱いながら、そこに社会派的側面も盛り込まれており、
読後いろいろと考えさせられるところも余韻深い。
 
無粋なことを言えば、果たしてこの現象は実際に起こりうるものなのか…?
など疑念がわきそうな部分もあるが、これだけ酔わせてくれるのならば物語と
してアリだろう。
 
唯一気になったのは、物語における彼の存在が微妙に影が薄く感じられること。
御手洗の頭脳のキレは感じられるものの、彼が名探偵という称号に倦んでいる
のでなければよいのだが。
名探偵・御手洗潔の次の活躍を鶴首して待ちたい。