伊坂幸太郎「魔王」
2005.10講談社\1,300
ふとしたことから自分の持つ能力に気付いた青年が、
ファシズムに傾きそうな日本に歯止めをかけようと試みる「魔王」と、
男の意志を知らず継ぎゆく弟とその彼女を描く「呼吸」の連作を収録。
う〜〜ん、不思議な味わいの小説…。少なくともミステリーでは
ない感じ。どちらかというと純文学に近いムードかな。
どことなくファンタジックで不条理で、それでいておしゃれで爽やかで。
様々な要素が詰め込まれて小出しにされて、
読み終えてみればまごうかたなく伊坂幸太郎風味の小説であるという…。
著者によるあとがきで、ファシズムがテーマではないと記されて
いるとおり、人々が右へならえと流されていくとき、
そこで迎合せず踏みとどまること、
個人のレヴェルでは無力かもしれないが、
「考えろ、考えるんだマクガイバー」というセリフが示すように、
情報を出来るだけかき集めてよく見極めて自分の頭で結論を出すことの
大切さを訴えているのかも、しれない。
もちろん教訓的に読まなくても、映画「スキャナーズ」ばりのウォーズや
兄弟のゆったりとしてどこか愉快でおしゃれな会話をライトに愉しむ
読み方も出来る。