読書日記PNU屋

読書の記録

恩田陸「ネクロポリス」上・下

 
オンライン書店ビーケーワン:ネクロポリス 上オンライン書店ビーケーワン:ネクロポリス 下
2005.10朝日新聞社\1,890\1,890


東京大学の院生・ジュンイチロウ(ジュン)は、血縁者のいる国
V.ファーで行われる「ヒガン」なる風習の調査に赴く。
アナザー・ヒルなる聖地に滞在すると、死者に逢うことが出来るという
のだ。半信半疑だったジュンだが、数々の奇現象に遭遇して…。 

ああもうこれは、いつもの恩田陸小説。
途中まではもう最高に面白くて、日本人で良かった、
恩田陸を翻訳を待たずに読めるなんて、なんという幸せなことだろう、
と感涙にむせぶのだが後半急に色あせて見えてしまう、という…。
 
V.ファーを初ねて訪れる主人公・ジュンが不可思議な
この国の様子にいちいち驚いてくれてたいへんに面白い。
ジュンに感情移入するうちに、読者もわくわくしながらV.ファー観光と
歴史の勉強が出来るというわけ。
 
前半は架空の紀行文学であり、
連続殺人ミステリーであり、
民族学小説・スプラッタホラー、心霊ファンタジーの全ての要素を
兼ね備えて、無敵の面白さである。
 
なぜ後半を私は面白いと思えなかったのだろうか?
それは、私が期待した展開ではなかったのだろう。
ジミー&テリーの関係についても、どこかしら中途半端な印象に思えて
しまう。わざと謎の余韻を残したということだろうか?
二人の行動にはわからないことが多すぎて納得がいかない。
 
せっかくムードたっぷりに進んで来たのに、最後で、やや急ぎ足となり、
観念的な説明が多く大味になってしまったようで残念だったのだ。
どこにもないはじまりが、よくあるタイプのオチにおちたこと、
それが失望の原因なのかもしれない。
 
ニザエモンをはじめとしてユニークな「お客さん」と逢えたのは
楽しい体験であったし、マチアスが持ってきた瓶詰めシーンなどの味わいは
ホラーファンならこたえられぬ喜びがあった。

なにより素晴らしかったのは、古き良き日本と英国、そして恩田陸風味が
混ぜ合わさって出来たこの国・V.ファーの存在であろう。
ラストが私には納得いかなかったものの、V.ファーという素敵な国に
本書で旅行出来たことは楽しい読書体験となった。