読書日記PNU屋

読書の記録

村上春樹「東京奇譚集」

オンライン書店ビーケーワン:東京奇譚集2005.9新潮社\1,470
 

ううん、合わなかった…な。
どこかで起きていそうな物語、ということだが前半の3篇以外は
とても起こりそうにない気がするのであった。
以前から村上作品の良さがわからない私(「羊をめぐる冒険」と
世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」は別だ。
あれはエキサイティングだった)。
 
村上春樹小説って、絵にたとえるとアブストラクトだなぁと思う。
例えるとホアン・ミロパウル・クレーか。
手取り足取りのエンターテインメントではなくて、読む側の心を
投影・反映してなおさらに輝く抽象画、みたいな純文学。
私はドミニック・アングルのごとき驚愕の写実画だとか、
サルバドール・ダリのような手に触れられそうな奇想などが
好きな人間なので、それで合わないのだろう。閑話休題
 
「偶然の旅人」「ハナレイ・ベイ」までは、少し不思議で
だいぶリアルな物語を愉しんだ。
 
「どこであれそれが見つかりそうな場所で」はよくあるfugueの話
としか思えなかった。きちんとしつけられたお子様と、
かなり怪しい男の会話はオシャレで楽しかったが。
 
「日々移動する腎臓のかたちをした石」なぜに医師?
 
品川猿」これは巧いと思う。リアルな心のキズにありのままに向かわず、
メタファでやり過ごすところだとかが。たぶんここで“猿ってなんだよ”
とか思ってしまう私のような人間には愉しめない話なのだろう。
直面することを避けて、回り道しつついつしか病理に到達するのは精神科の
カウンセリング療法でもままあることで(私はその道のプロではないが、
そういう話を見聞きした覚えがある)、それをファンタジックな小説に
仕立ててしまうところがこの作家の巧さと感じた。

p.s.北村薫「語り女たち」っぽい日常に潜む淡い不思議が
好きなら楽しめるのでは?
普段、平山夢明「東京伝説」の原色の恐怖や、
平山夢明・加藤一「「超」怖い話」の闇よりもなお昏い漆黒の
めくるめく快楽に溺れている私には、本書の淡い色彩が無色に見えた
ということなのかもしれない。