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読書の記録

森福都「漆黒泉」

オンライン書店ビーケーワン:漆黒泉2005.9文芸春秋\1,980


高姑娘になるであろう、と予言された商家の娘・芳娥は、
許嫁の遺志を継ぐため刺客となる決意をする。
そこへ仲間たちが加わるが、その思惑は様々で…。
 
前半はすごくわくわくしていて、芳娥が背の高さを生かして
大活劇になっていくのか?と思ったのだけど…。
盛り込みすぎのせいか、バタバタした印象になってしまったのが、
やや残念。たとえば、
婚約者と芳娥、婚約者に似ている青年との三角関係、
新法派と旧法派との確執、
誰が彼を殺したのかの疑心暗鬼と推理、どれも魅惑の設定でありながら
どれもが等価に淡々と描写されていくので(私は)のれずに終わって
しまった…。
そして大悪人も、正義のヒーローもいない本作。
みんな憂い、迷い、怒り嘆く普通の人々であり、芳娥は背の高さが、
括は立身出世への執着が、建弘はアイデンティティの危うさが、
月英は美しさがちょっとだけ普通のワクから逸脱してしまっただけである
という…。
年齢から考えると無理もないが、芳娥が素直すぎるように感じられて
しまうのも違和感の原因かもしれない。
 
それでも少女が偶像を捨てて生身の人間として婚約者を見つめ直したり、
ショックな事実も受け止めて前向きに生きていく様子は爽やかな感動を
呼ぶのではないだろうか。