読書日記PNU屋

読書の記録

重松清「その日のまえに」

オンライン書店ビーケーワン:その日のまえに2005.8文芸春秋\1,500
 

事故、病気…身近な人との別れに対する想いを描く小説。

ひこうき雲」「朝日のあたる家」「潮騒」「ヒア・カムズ・ザ・サン
その日のまえに」「その日」「その日のあとで」を収録。
 
人は生きている限り必ず命の終わる時が来る。
生との別れは遅かれ早かれ誰にでも来るのであり、“その日”に対する
心構えを育てるには適した本であると思う。
なにしろ人生の終末が書かれるのだから、ドラマチックにならないわけが
ない。本書の挿話のどれかは必ず、読者の体験ともオーヴァーラップする
のではなかろうか。
死を受け止めるよう努力する前向きな姿が描かれていて、重たくなりすぎ
ないのも好印象。
 
いつも私とはどうも感覚が合わないこの著者の小説だが、本書はよかった。
特に、幼い人たちがいじっぱりなクラスメートの病を知る「ひこうき雲」が
圧巻だ。これが良すぎて、私には後の作品の印象が薄れてしまったほど。
子供が精一杯、級友によかれと思うのだけど、若さゆえの青さで実は
過ちを犯してしまう。親しい人ならば哀しいけれど、
クラスの嫌われ者だから複雑な心境になる…シンプルな子供ならではの
残酷さがにじみ出ていてリアルに感じられた。
 

その他の作品は、ところどころスピリチュアル(?)というのか、
スーパーナチュラルな描写が混ざっていて、そこが私には興ざめであった。
そこが幻想的で美しくて良いと思われる向きもあるだろうけれど。
級友の死、自分や家族に起きた重大な病など病系の話が多いなぁと思ったら、
オチを読んでそういうことか、と納得した。