読書日記PNU屋

読書の記録

東直己「スタンレーの犬」

 
オンライン書店ビーケーワン:スタンレーの犬2005.8角川春樹事務所\1,995


19歳の青年「ユビ」は不思議な力を持ち、一目置いている
大人・折井さんのもとで働いている。ユビに与えられた今度の仕事は、
女社長の香奈とともに旅行をすることで…。
 
この著者の本をよむのはまだ(2005年現在で)3冊目なのだが、
ススキノとポルノの描写がどうにも私の趣味にあらず…。
知的障害のある人の描写が、ストーリー上どうしても必要とも思われないのに
(しいて言えば、意志通りにならぬこの世の情景の一部か)繰り返し
出てくるところにも首をかしげる
 
そして、ムラカミハルキ的とも見える男女のオシャレな会話&
貞操観念の非常に希薄な青年主人公。しょっぱなから不適切に怒りを
たぎらせるユビに苛々とさせられるし、
「忍さん」が出て来た時点で私はやりきれない気分になり、
本を投げたくなってきた。結果的には、読了出来てよかったのだが。
 
香奈との異常な関係の旅が始まってから、本書はがぜん面白くなる。
ちょっぴり恩田陸黒と茶の幻想」のごとく、
主人公たちはさすらいながら、対話していく。
会話は意味があるようで無いような話ばかりだし、
旅には明白な目的地が無い。私はユビと香奈の交わす会話がたいへんに面白く、
引きこまれてしまった。とくに香奈の「スタンレーの犬」の話が素晴らしい。
だから何、と言えぬこともないが、不思議と心にほかほかととどまり続ける話で、
「スタンレーの犬」を読めただけでも私は本書を読んで良かったと思えた。
ユビの思いこみの激しさや性的なことがらの話にはちと食傷気味になったが…。
 
ひとつひとつの挿話に意味がないようで、たった一つの結論に向けて
物語は奇妙なまとまりを見せる。あるかなきかのユビの超(?)能力も
サスペンスフルで、不思議な読後感を残してくれた。
 
このラストのために、だからユビなのか。ユビのような、どこか厭な人間で
なければならなかったのか。納得。部分部分に気に入らない点がありつつも、
清冽で不可思議なインパクトある作品であったと思う。