奥泉光「モーダルな事象 桑潟幸一助教授のスタイリッシュな生活」
2005.7文芸春秋\1,950
一流を目指していたのに、いつしか冴えない五流文学者になりはてて
しまったクワコウこと桑潟幸一。そんなクワコウのもとに持ち込まれた、
ほぼ無名の作家・溝口俊平の遺作…それが全てのはじまりだった!!
本格ミステリ・マスターズの一冊。
この著者の本を初めて読んだが、異なる文体を華麗に使い分ける
技の冴えに魅了された。このなさけない主人公のクワコウ、
ダメ人間のクワコウがあまりにダメすぎて、あきれ果てるを通り越し、
いつしか同情を禁じ得なくなるところもいいね。
アトランチィスを中心とするオカルティックな側と、
溝口の遺稿をめぐるリアルな側が絡み合い、もつれ合いながら進んでいく
様子がスリリング。
凡人であるクワコウが体験する悪夢のような幻視内容にはぞくぞくと
きてしまう。しかし、北川アキら夫婦(シロウト)刑事側はややレトロな
展開で、退屈してしまった。