松尾由美「雨恋」
雨の日しか逢えない同居人に、とある謎解きをたのまれた主人公。
にわか探偵として謎を追ううち、彼はいつしか…。
「彼女」、千波が肝心なことをなかなか言わないで思わせぶりで
あったり、紳士と思いきや時なまなましい心情を告白してみせたりも
する主人公にどぎまぎしたり…。
主人公が三十路にしてはなんだか子供っぽくて純情すぎるとか、
千波は寂しいんだかしっかりしてるんだかキャラがつかめないだとか、
登場人物の誰を好きとも言えないし、
ストーリーにつきまとう違和感があったりもする。
それでも読みやすくはあるし、展開もサクサクとしているのだから
たいしたものか。
千波の話はどうもすっきりしないことが多く、ゆえに真相は
そんなところだろうなと思える。ネコの存在はあまり生かされていない
ような。小道具にすぎないのね。彼女の過去も唐突な感じで、そんなに
ディープなものを負わせる意味がわからない。
どういう効果を狙ったのかなあ…?これによって、もともとつかみづらい
千波というひとがますますわからなくなった。
だからラストへの求心力を欠いたようにも思える。
ひとつ難問のハードルをクリアするごとに回復してゆくという
モチーフは手塚治虫「どろろ」の百鬼丸をはじめとして多々見られるが、
回復程度が本人ではなく他者に依存するというところが斬新だったりして。
ミステリとして見た場合、モヤモヤする部分がやはり真相へのカギ
だったりとか物足りぬ気持ちもする。恋愛ものとして読めば、
二人の心の描写が少なすぎるような気もする。
もっと恋愛に絞ってくれればかなりの感動作になっただろうに
もったいないな。そんなどっちつかずな感のある本作だが、
ラストは何とも美しく、そのおかげで読後感はさほど悪くはない。
シリアスな場面なはずなのに、どうにもコミカルだったりと
アンバランスな印象の1冊だが、エンターテインメントを求めて読む
には充分な水準に達しているのではないだろうか?