読書日記PNU屋

読書の記録

朱川湊人「かたみ歌」

オンライン書店ビーケーワン:かたみ歌2005.8新潮社\1,470

 
関東のあのなつかしい街で、ちょっと不思議でせつない出来事は
起こった…。ノスタルジックなムードあふれる連作集。
 
関西を舞台にしたノスタルジック・ホラー「花まんま」で2005年
直木賞を受賞した作家がおくる受賞後第一作は、
関東が舞台のこれまたノスタルジーもの。だが、連作風味であったり、
「花まんま」ほどの妖しさはなく、人情方面にシフトしているので
ホラーが苦手な向きにもおすすめできる内容になっている。
 
「紫陽花のころ」殺人事件のあったラーメン屋のそばに、たたずむ男は何者?
これは、よくある話と言えばそう。オチも読めてしまうのだが、
ひとひねり加えられていて良い方に予想を裏切ってくれた。
 
「夏の落とし文」カタカナで書かれた謎の貼り紙は何を意味しているのか…。
これは実話怪談などでまさに本書で紹介されているのとほぼ同じ
ネタを読んだことがあり、だいたいの予想はついてしまうのだが、
肉親を思う情で読ませる。オチの来ミュ尾名味わいは、
那須正幹「少年のブルース」が好きな向きに超・オススメだ。
 
「栞の恋」男女が軽薄ではなく奥ゆかしかった時代の淡い恋。
すぐに肉体に走らない恋愛っていいなぁ。このじれったさと清純さが
たまりません。ネタ自体は、柾悟郎の某短編をはじめとして同ネタ多数、
なのだろうがこの爽やかさは捨てがたい。
 
「おんなごころ」母と女どちらを選ぶかおんなごころ。
ほろ苦さを中和するのは、ママのまっとうな人間性だろうか。しみる。
 
「ひかり猫」漫画家志望の青年の部屋に迷い込んで来たものは…。
ありがちではあるけれど、ベタではあるが、ベタならではの感動は
否定出来ない。ええ話や。
 
「朱鷺色の兆」あるサインが見える男の物語。
これもまた、とある実話怪談で同ネタがあるのだが(そちらはピンク
ではなくグレーという違いはあったが)、それに+αがあるので楽しめるの
だった。自分の身に置き換えると身につまされるのはこれかもしれない。
 
「枯葉の天使」少女と枯葉の意味がわかるとき、涙こぼれる…。
ここまで読んで来て、関東のとある商店街で全ての事件が起こっている
ことに誰もが気付くことだろう。そして全てに中古書店の店主が何かしら
かかわってくることに半ばいぶかしい思いを抱いていた私だが…やられた。
こういう話だったのか!もちろん、先ほどの怪談ネタと同様に、ここで
書かれる夫婦像にはすぐにモデルとなる実在人物が浮かんでしまうだろうが、
それでもここまで巧く料理してくれると文句を付ける気がしないというもの。
 
次回作も期待大、である。