読書日記PNU屋

読書の記録

飛鳥部勝則「鏡陥穽」

 
オンライン書店ビーケーワン:鏡陥穽2005.7文芸春秋\2,450


レイプ未遂犯を過剰防衛で殺してしまった葉子。
しかし、殺したはずの男が再び葉子の前に現れ、久遠と名乗る彼は
奇妙な鏡の物語を語りはじめる…。
 
うお、怪作。なにしろ本格ホラーですよ。
観念的な恐怖と狂気あり、スプラッタあり、エログロありと
盛りだくさんな内容を散漫にならず、きりりとひきしめまとめあげるとは
素晴らしい。
 
葉子の恋人・水谷の幻視もぞわぞわと背筋なぶってステキなのだが、
久遠の父・青史にはヤラレたね。美形にしてクズの中のクズであり、
インフォマニアでもあるエピキュリアンの青史。コイツの言動の異常さ、
おぞましさと来たら…ぶるぶる。それでいてどこかユーモラスなのは、
子どもが虫の足をもぎとるように、青史に邪念がないからだろう。
それが計算された悪より余計に怖く、彼のド変態ぶりに圧倒されてしまった。
青史が何をやらかすのかは読んでのお楽しみということで…。
 
ミステリーが出自のこの著者らしい遊び心もピリッと効いているので、
ファンは最後まで気をぬかずに読んでね。
 
今回は著者の絵はカバーのみ、画家・稲垣考二作品が口絵に付いているのだが、
この絵が作中の悪魔的雰囲気に絡み合い、えもいわれぬ世界を創りあげている。
著者「あとがき」(たいへんに視点が面白く、美術好き必見!)
によれば絵に合わせて作られた物語ではないそうだが…
鏡という媒体を通じて絵画と文章の世界がシンクロする不思議を感じる。

p.s.伊藤潤二・画でコミック化してくれないかなぁ。イメージなんだけど。