読書日記PNU屋

読書の記録

横山秀夫「震度0」

オンライン書店ビーケーワン:震度02005.7朝日新聞社\1,890

 
阪神大震災の朝、N県警警務課長・不破が無断欠勤した。
どうも、不破は失踪したらしい?キャリアとノンキャリ組は
対立しながらも不破の失踪の謎を解こうとするが…。
 
惜しいッ。私、「第三の時効」のような警察内部いがみあいネタは
けっこう好きなのだ。本書も小心者の椎野と野心家の冬木の対立関係が、
どこかユーモラスで面白い。キャラ的には「第三の時効」よりも小粒な
感があるが、それぞれの保身と打算を胸に陰謀めぐらす男たちが小ずるくも
楽しいのである。

なのに、なぜ私は本作を気に入らなかったのか…
それはこのフィクションが、現実にあった阪神大震災を背景に絡めている
ところにある。警察組織が大きな不祥事に揺れるところは地震
たとえられなくもないだろう。だが、あの現実の大震災と無理に
リンクさせなくても良かったのではないか。

私は評判の高い「クライマーズ・ハイ」が不愉快だった読者なのだが、
その時と同じように我が身に起きた小事に比べれば、たとえ
いたましい大惨事であろうとも所詮他人事、という人々が今回も
ぞろぞろ出て来てストレスフルであった。
大震災と警察不祥事を比することによって、人間の卑小さを強調して
いるのか??
 
そして、もう一つイタかったのは失踪事件では今年(2005年)、
本作に先立ってF.M.の「×ブ×ン」という佳作が出ていること。
人望のある地位ある人物がいきなり失踪するというところがカブっているのだ。
ちなみにラストも似ている。それもあって、本作から受けるサプライズは
少なくなってしまった。
 
男性陣が一癖も二癖もあって味わい深いのに比べ、
女性は古くさくステレオタイプなのが多い横山作品であるが、
今回は冬木の妻・ぴちぴち紘子はひとりゴーイングマイウェイで異彩を
放っていた。