読書日記PNU屋

読書の記録

伊坂幸太郎「死神の精度」

オンライン書店ビーケーワン:死神の精度2005.6文芸春秋\1,500

 
太陽を見たことのないほどの雨男・千葉のお仕事は対象となる
人間を調べ、ある判断を下すこと。可か、見送りか。
とぼけた千葉が見つめる人間模様とは。
 
ミステリーちっくな死神ものというと柴田よしき「窓際のアンクー」を
思い出すが、本作はそれよりぐっと死神本人(…本神?)に焦点をあてた
つくり。
 
主人公・千葉は俗界にうとすぎて、レトリックを言葉通りにとらえる
など真面目が180°回転してマヌケになってしまうような人物。
最初はその間違いが可笑しかったのだが、読むうちにくどく思えて来た。
ねえ千葉さん、それサムいよ。何年このお仕事してんの、
もうちょっと覚えなよ!とツッコミを入れてしまいたくなるほどである。
 
ひょうひょうとしていてどこかせつない、いい話ばかりなのだが、
この評価になったのは、やや設定にムリがあるところ。
素手で触れるだけで人間を失神させ、寿命を1年短くさせてしまうような
存在が、なぜ女性と仲良く出来るのか(秋田氏だが)?など、
首をひねるところも少々ある。
だが、この設定ならではの痛快な味わいというのもあって、
凡庸なミステリーやサスペンスに終わってしまいそうなところを斬新に
味付けして見違える物語に仕上げてみせたのが「死神と藤田」や
「吹雪に死神」だろう。ラストの仕掛けも格別で、連作ならではの
オチがきりりと物語をひきしめ、あらがえぬ感動を与えてくれるのであった。