読書日記PNU屋

読書の記録

江國香織「赤い長靴」

赤い長靴

赤い長靴2005.1文芸春秋\1,470

十年以上にわたって夫婦二人暮らし、子供はない。
はたからはむつまじく見え、浮気にも縁が無い日和子と逍三だが、
彼らの内面は…。
 
これは或る意味ホラーとも読める。子供がいないということは、
親にならないということであり、それゆえに二人だけの空間=家庭は
その密度を息苦しいほど増していく。

家庭の閉鎖加減というモチーフは「間宮兄弟」にも見られたが、
本書は夫婦という男女、かつての恋人同士であるせいか家庭の砦化と
閉鎖感は増していくばかりだ。
 
スイートリトルライズ」のように不実でもなく、互いにすれ違いながら
もともに暮らし想い合う日和子と逍三は素敵な夫婦のはずなのだが、
どうもそう思えない。私は彼らが怖い。日和子は家庭的で貞淑で、
欠点といえばやや社交性に欠けるくらいの絵に描いたような良妻。
逍三は古い日本の男のようで、無口で不器用なタイプ。
コミュニケーションすら満足にとれぬのに、言葉以外でわかりあい、
また誤解しあう彼らを見ていると、ほほえましい一方でふと
うすら寒いものを感じてしまうのだ。
 
子供のいない夫婦=未成熟ということはないと思うが、日和子夫婦は
どこかおっとりとして時を止めてしまったかのよう。それは時に子供っぽい
ほど逍三にべったり依存する日和子のせいでもあるし、
またいい加減ななま返事で済ませてマイペースをつらぬく逍三が、
いまの日和子をそのままでよい、むしろそのままいつまでも少女らしく
あれと思っているせいでもあろうな。