大倉崇裕「やさしい死神」
落語雑誌編集部の間宮緑が活躍する、落語ミステリシリーズ第三弾は、
小粋な連作集である。表題作のほか、「無口な噺家」「幻の婚礼」
「へそを曲げた噺家」「紙切り騒動」を収録。
「三人目の幽霊」「七度狐」に比べ、謎はレベルアップ、
読後感も好感度急上昇とシリーズ最高傑作と呼びたくなる本書。
ミステリーファンならば見逃せない濃い1冊となっている。
今回は緑ちゃんも成長して見事な探偵ぶりを見せてくれるし、
喰えないオッサン牧氏も、その師である京氏もいい味出していて面白い。
何が良いかって、謎を解いてハイおしまい、ではなくて
謎が多重にブレンドされていたり、解決したあとに感動が待っていたりの
エンターテインメントぶりにノックアウトされてしまうのだ!
もはや見事という他はない。
落語家や落語の内容が無理なく謎と絡んでいて、そのあたりの
バランスも格段に良くなっていると思う。まさに落語のごとく、
人情でホロリと来てしまう。
素直に読めない私には「幻の婚礼」ははた迷惑で好きになれないし、
「へそを曲げた噺家」のオチはやや出来すぎかと思わないでもないが、
ハズレなく気合いの入った作品集だ。
気合いが入ってよく出来ているけれど、ムードがほんわかとしていて
読者に過度の緊張を強いないのもいい。人によっては満足度満点でも
おかしくない素晴らしい出来。