読書日記PNU屋

読書の記録

シオドア・スタージョン「ヴィーナス・プラスX」

オンライン書店ビーケーワン:ヴィーナス・プラスX2005.4国書刊行会\2,310


目覚めたそこは、奇妙な人々のいる異世界レダム」だった。
チャーリー・ジョンズはレダム人から彼らのことを学ぶようたのまれるが…。
 
導入がいい。
現代人チャーリー・ジョンズがいきなり目を覚ましたら奇怪な世界に
いるのである。直線ではなく曲線で構成された建物、そして銀色の空。
その世界レダムで、レダム人からレダムを学んでくれるようお願いされた
チャーリー・ジョンズとともに読者はレダム世界を見学して歩くことに
なる。SFは現実とは異なる世界観を飲み込むまでに時間を要することが
多いが、はじめからチャーリー・ジョンズは異分子なので、
彼と一緒にまっさらな気持ちでレダムを学べるところが巧い。
 
男女性別なき人々が住む「レダム」の世界と、
ごくふつうの男女が暮らす「ベゴニア通り」の物語が交互に展開していく。
性別が存在しないレダム、
そして男女の性別が存在し、それによって差別や倒錯や葛藤が起きる
我々の世界との対比が面白い。
 
特筆すべきは「ベゴニア通り」の世界で、ごく普通の中流家庭の生活を
淡々と書いているのに、妙に惹きつけられる。それは善き父である
ハーブ・レイルと妻子、隣人のスミティたちの描写がリアルで真に迫って
いるせいか。レダムの習俗よりも、ベゴニア通りの方が面白く思えたほど
だった。レダムが抽象的すぎて、レダム世界の説明にやや退屈したところも
あったしな…。
 
そしてただでは終わらないのが本作。ミステリーと言ってしまっても、
良いかもしれない。このラスト、謎が解けるところ…そしてそれによって
一変する世界、我ら現代人ののど元に突きつけられた剣、
それはSFを読み慣れた方には古くさいモチーフであろうが、
私は眩暈に襲われるほどの衝撃を受けた。