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読書の記録

宮部みゆき「孤宿の人」上・下

オンライン書店ビーケーワン:孤宿の人 上2005.6新人物往来社\1,890オンライン書店ビーケーワン:孤宿の人 下


望まれずに生まれた少女「ほう」は虐待されながらも強く生きのび、
丸海の地で医師の家の女中となる。
ところが安住の地と思われた医師の家でも、悲しい事件が…。
そのころ、江戸からは鬼魔物とおそれられた加賀様が流人として
丸海にやって来て…。
 
人情時代ミステリー。いつものミヤベ時代モノらしく、
犯人は冷血で、巨悪に凡人はなすすべもない。
「ぼんくら」でも見られたような、やるせなさ・やりきれなさが見られる。

だから読後感が悪いかというと、そうでもないのは「ほう」の存在に
救われているからか。とはいえ、宇佐のその後などを見るに、
こんな風にしなくてもよかったのでは…との思いがよぎる。
想像するに、書いているうちに登場人物が勝手に動き出してしまうと
いうような、そういう状態でいらしたのでは…
ラストまとまってはいるものの、それは「ほう」の純粋さにたよった
部分が多く、クライマックス部分の展開が唐突に思えてしまった。
 
また、これはいかにも時代物でしか成立しないミステリーで
(現実にやろうとすれば小野不由美黒祠の島」のような特殊な
風土設定を作るしかないだろう)、現代の読者からすればやや
心理的隔たりを感じるのだが、それが良い方に作用して身分の差で
あるとか時代物ならではのむごさが出ていると思う。
時代モノだからって、時代劇のように単純明快勧善懲悪では、ないのだね。