読書日記PNU屋

読書の記録

恩田陸「ユージニア」

オンライン書店ビーケーワン:ユージニア2005.2角川書店\1,785


誰もが尊敬する旧家でお祝いの宴が開かれた。
しかし祝いの席は死で彩られる。大量殺人事件にかかわり、
とらわれていった人々はいかに生きていったのか…。
 
これは「Q&A」の手法をさらに発展させて、ムードあるミステリー
となっている。それこそ宮部みゆき「××(伏せ字)」のその後までも
描いたかのような。「夏の名残の薔薇」がミステリーとしては不満だった
向きも本書ならば満足されることと思う。
 
恩田陸のすごさは、空気までもその文章に封じ込めてしまうところにある。
作中で雨が降っていれば肌にまとわりつく湿気を感じ、
海辺であれば潮騒の幻聴までしてくるほど。
感覚にうったえてくる文章の魔的な魅力は健在で、これぞ恩田陸作品の
醍醐味だろう。
 
人々の描写は、まるで見知らぬ人々の私生活をのぞき見ているかのような
居心地の悪さまで感じてしまうほどのディティールですごい。
 
進むごとに解かれ、または深まりゆく謎にも魅せられた。
ただひとつ不満なのはラストのカタルシスが弱く、謎の魅力に見合わないことか。
 
ありがちなミステリーとは違い、犯人がわかったことでは物語は決着しない。
真相はあっけなく、それゆえにおおかたの予想よりも残酷でやりきれない
ものであった。誰もが神を探していたのか…。