読書日記PNU屋

読書の記録

藤原伊織「シリウスの道」

オンライン書店ビーケーワン:シリウスの道2005.6文芸春秋\1,800


25年前、13歳の時に起こったあの出来事は、三人の秘密だった。
広告会社に勤める辰村は、13年前の親友・明子があの件で脅迫されて
いると知らされる。公私ともに正念場をむかえた辰村の秘策とは…。
 
楽しく、面白く、はらはらして、せつなくほろ苦い小説だ。
幼い頃のノスタルジー広告業界サスペンス、
大人ゆえに奥ゆかしき恋物語、敵味方もクセのある会社人間模様など、
見所たくさん。それらがあまりに魅力的なので、本書をミステリー
ジャンルに分類する根拠となるはずの脅迫状にまつわる諸々が
かすんでしまうほど。
 
不満を敢えて言えば、辰村に最初感情移入しがたいことか。
それは年齢・性別・職業の違いがあるから仕方ないのだろうか。
辰村がなぜあれほどやさぐれてたそがれているのかが、ピンと来なかった
のである。
 
都合の良さ、辰村が恵まれすぎなのも気になる点。かってくれる上司に
慕ってくれる可愛い部下がそろいぶみ。都合が良い。
でも、一読者でも惚れ込む男っぷりの辰村であるから、人望を集めるのも
不思議ではない。まっすぐな戸塚、大人な立花などたいへんに良かった。
 
過去の事件は拍子抜けというか、明子がいくら親友でも異性に
そんなことを打ち明けるだろうか…などの疑問ものこるが、
ノスタルジック・ファンタシィの側面もあるのだろうな。
不満も述べたがピンチの連続パンチによる緊迫感はかなりのもので、
これほど楽しい業界ミステリーを読んだのは、
池井戸潤「オレたちバブル入行組」以来だった。

p.s.んで、結局自分を殺して組織の利をとるのと、
自分を生かして組織にそむくのとでは、どちらが人間として正しいんだろうか?
答えは出ないのかも、しれないが…。

7月追記:公園爆破事件など、「テロリストのパラソル」っぽい過去の記述
が出てくるのだが、やはりそちらとリンクしていたらしい。
キノさんのブログを拝読して気付いた。登場人物名をすっかり忘れてる私…。