読書日記PNU屋

読書の記録

町田康「浄土」

オンライン書店ビーケーワン:浄土2005.6講談社\1,680


肥大する自我と非常な現実との折り合いに苦しむ人々を描く短編集。
 
いや、すごい。面白い。エログロナンセンスからエロ成分だけ除去したが
ごとき、残酷さと不条理が充ち満ちた小説集である。
 
「犬死」近頃不幸ばかりに襲われる作家が、占い師のもとを訪ねるが。
スーパーナチュラルな内容なのに、この膚にひたひたと迫り来る
恐怖はなんなのだろうか。ぶるぶる。気が弱るとは、まさにこういうことなのね。
 
「どぶさらえ」ものすごく汚れ放題になったどぶを、さらう男が
たどりついたのはビバカッパ?
哀しい話だなぁ、悲しいなあ。主人公が感じている疎外感の、
なんとリアルなことよ。こういう一歩間違えたら被害妄想なんだけど、
実はけっこうマトをついてる直感って割とよくあるような。胸ふるえるなあ。
 
「あぱぱ踊り」踊る女2人を引き連れた、おかしな男のバケの皮をはがしたい私。
これはね、好き。面白い。バカでバカでどうしようもないんだけど、
肥大した自意識を容赦のない現実から守るには、ここまでしないと
ダメなのかもしらんね。まあ、やってもダメなのだけどさ。
寓話として読むと深い、ような気がした。
 
「本音街」本音街で起きるすてきなことごと。
う〜ん、いい町だ。住みたい。でも、きっとたまにだからいいいのよねぇ。
毎日はちょっとねぇ。
 
「ギャオスの話」中野に人食い怪獣あらわる!
非日常も存在し続ければ日常の一部になってゆく、そのありようが見事。
 
一言主の神」一言主の神が、降臨して巻き起こす脅威のことどもとは。
古典新釈モノだが、さすが面白い。
 
「自分の群像」意地悪男に甘えんぼ、会社にいる嫌なヤツに沸騰寸前のOL。
これもスーパーナチュラルだが、不思議とカタルシスある内容で好もしい。
 
…以上読んできて、スーパーナチュラルなオチが付くと読者により好みが
分かれそうだなぁと思った。私はけっこう好きだ、こういう小説。
とにかく美しくリズムのよい町田文体をこころゆくまで味わえるし、
死と苦痛に彩られながらどこか輝く奇妙な読後感をのこすこんな本を、
ぜひともまた読みたいと思うものである。