読書日記PNU屋

読書の記録

いしいしんじ「ポーの話」

オンライン書店ビーケーワン:ポーの話2005.5新潮社\1,890


泥の川をはいずり回ってうなぎを獲る「うなぎ女」たち。
うなぎ女から生まれた赤ん坊はポーと名付けられ、母達の愛を
一身に受けて育つが、旅立ちの時がやって来て…。
 
これはビターなファンタシィ、大人のためのおとぎ話?
「白の鳥と黒の鳥」で見られたような、どこか懐かしく、かつ
グロテスクにも見えるモチーフがふんだんに織り込まれていて魅せられる。
しかし、美しいが色濃いフリークス・テイストが読む人によって好き嫌いが
分かれそうだ。
 
今までのいしい作品としてまず思い出される「ぶらんこ乗り」
プラネタリウムのふたご」のようないい人だけが出てくる物語ではない。
まず、主人公であるポーが、一般人の常識からややはずれた世界の住人
(そのせいで、物語が動き出す中盤まではやや読むのがつらかった)。
女たらしのメリーゴーランド、使用人を虐待するゴミ埋め屋夫婦など、
昔話で見たようなわかりやすい悪人であるが、どこか憎みきれない人々が
魅力的なのだ。攻撃的なひまし油に純真な天気売り、狩人犬じじなども興味深い。
善のみ、悪のみという単純化された人間ではなく、
その両方を様々なブレンドであわせ持つ人間を描いていて、そこが気に入った。
そしてご安心あれ、あの人はどうなったのだろう?という疑問は丁寧に
解かれる。世界は水と生物でめぐるのだ。

「スフスフ」「フルー、フルー」など面白い擬音もたくさん出て来て、
そこがまた好き嫌いが分かれそうだ。独自の擬音に災害と贖罪、自己犠牲など、
宮沢賢治の童話を彷彿とさせる、叙情あふれる小説であった。
p.s.椎名誠の奇妙な世界小説が好きな向きにオススメ。