読書日記PNU屋

読書の記録

横山秀夫「ルパンの消息」

オンライン書店ビーケーワン:ルパンの消息2005.5光文社\920


15年前に起きた女教師の飛び降り自殺は、実は殺人?
時効直前に謎のタレコミにより、新事実が浮上。
当時の関係者が一同に会して明かされる驚愕の真相とは。

デビュー作にはその作家の全てが詰まっているとよく言われる。
そんなことはないだろう、と常々思っていた私だが、本作は
その言葉が当てはまりすぎて怖いくらいだ。

 
長らく刊行されなかった幻の作品が新書で登場。
初版のみプレゼント企画があるので、興味のある人は急いでGETしてね。
 
面白い。いや、面白いよ。面白いんですけどね。
どうも私は横山秀夫作品とは相性が悪いようだ。
心おきなく楽しめたのって「第三の時効」だけだし。
あとはなんだか違和感や考え方の違いが気になってどうにも
楽しめないのである。 
 
まず面白いのはキャラの立った捜査官同士の緊迫感ある駆け引きが
存分に書かれていること。この男くさくも情熱の世界はこの著者の
醍醐味であると思う。
そして大胆なプロット。まさか、女教師飛び降りとあの昭和を
ゆるがす大事件…とは剛毅なネタだ。今回も泣かしどころたっぷりで、
不良高校生三人のあつい友情と恋、そして貧しい級友の妹など枚挙に
いとまがない。最初、なぜ高校生の現在から始めて15年後の未来へ
進む展開にしなかったのだろうか?と思ったのだが読んで納得、
こういうことだったのか!とサプライズに打たれた。
ルパンの面影だぶらせる人物が不敵。
 
これら魅力も見方によっては欠点になるわけで。
なぜ時効直前の微妙な時期に隠しダマのリークがあったのか、
一応説明されてはいるけれども根拠が弱い気が、してしまう。
こういう人情理屈系の展開はのちの作品にも多々見られることなので、
気にならなければよいのだろうが…。大胆であるがゆえなのか、
どこか設定や展開の都合良さ、作り物っぽさも見え隠れしてしまう。
一度そこが気になってしまうと、素直に感動出来ないので私のような者は
横山作品読者には向かないことになろう。

いつも横山作品はそうだが、男性陣は素敵なのに対する女性陣が
誰も彼も古くさくて魅力を感じない。この作品は舞台が過去だから、
古くさくても仕方ないのだが。
 
後年に加筆されたとはいえ、ミステリージャンルへのデビュー作で
この水準とは。人気作家たりうる才能を本作ですでに発揮していたと
いうことで、すごいよなぁと思う。ファンは、著者による作品への
愛情のこもったあとがきも見逃さないで。