読書日記PNU屋

読書の記録

真梨幸子「孤虫症」

オンライン書店ビーケーワン:孤虫症2005.4講談社\1,680


セックス依存症の主婦が綴った日記。そこには、彼女の不倫
相手が奇病で急死する様子が書かれていた。いったい何が
起きているのだろうか…?
 
良くできたサイコサスペンス。麻未・奈未姉妹の一見仲が良い
ようで信じ合えない関係がリアル。これはグロテスクかつ
官能ホラーだよなぁ、と思いつつ読んだのだが、
うわ、しっかりミステリじゃん。ミステリ以外の何者でもないね。
騙し騙されの快楽には、セバスチアン・ジャプリゾ「シンデレラの罠」
のごとき衝撃を受けた。

主婦がセックス依存ということもあり、それほどねちこくはないが
濡れ場がいくつかある。こういうシーンが出てくるだけで気分が
悪くなる私であっても、本書は投げ出さず読めた。
それはただのポルノグラフィなのではなく、エロシーンに物語上
必然性があるからだろうなぁ。
 
タイトルから明かなように、とある虫が登場。熱帯医学を学んで
標本や症例(写真だが)を見まくった身には案外キモチワルイことも
なく平気であった。かえってべっとりしてくるマンションのご近所さん達や、
エロシーンの方がエグかったかな。快楽にいと弱き女性像が好きではないので。
 
しかしデヴュー作でこの上手さとは、畏れいる。文章が織りなす
ムードがすでに大家の雰囲気。新人なのに文章が上手いということでは
沼田まほかる「九月が永遠に続けば」も騒がれたが、本作の方が
世界が濃密で素敵であった。そんな都合良く人の精神がああなりますかね、
という点は両作品に共通した弱点であるけれども。
ラストのサプライズに好き嫌いがやや分かれそうだが、記憶のゆらめく
サスペンスフル・ミステリで私は好きだ。
 
もったいないのはSTDとしての虫というすごくグロいモチーフを
扱いながら、きれいにまとまりすぎたことだろうか。パニックホラーと
しても充分いける素材だけに、ミステリーとして美しくまとめあげた
ことが残念でもあり驚きでもあり。次回作が非常に楽しみ。

p.s.篠田節子「絹の変容」みたいな虫物が好きならオススメ。