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読書の記録

桐野夏生「魂萌え!」

オンライン書店ビーケーワン:魂萌え!2005.4毎日新聞社\1,785


平凡な主婦として暮らしてきた敏子は、退職後そば打ちに
興じていた夫を急病で喪う。そして、遺産目的にすりよる息子や、
死によってあらわとなった夫の隠し事に敏子の心はパンク寸前!
彼女の幸せは、どこにあるの?
 
いやぁ堪能した!夫の私語秘密が暴露され悩む寡婦、というのは
実はよくあるモチーフで、近年も石田衣良片山恭一らが
描いていたりもするのだけれど、すごいぞ桐野夏生超弩級である。
 
妻や母といった、役割に安住していた女がいきなり一人の人間として
自分を見つめ直すことを要求されるわけで、自分であればどうするのか
考え出すと深いテーマだ。悪いことが次々と重なり、途方に暮れる敏子が
いかに真の自分を発見するのかが見所。流行りの“自分探し”モノと
違うのは敏子は自分探しなんて考えてもいなかったのに、
周囲から追いつめられてそうせざるを得なくなってしまうところ。

ヒマが高じて自分を探すのではなく、衝撃に打ちのめされて解体されて
しまってから、自分が生きるために自己のなんたるかを探り出すところが
静かな感動を呼ぶのだ。
 
上手いのは栄子ら女友達、そしてフロ婆さんや絵はがき女などの
奇怪な人々だ。この辺が桐野夏生作品の醍醐味だろう。ただし塚本には
私は魅力を全く感じず、そこだけは敏子のことが理解不能であった。
理解できぬことを勢いで為してしまうのも、また人間ということだろうか。