読書日記PNU屋

読書の記録

古川日出男「ベルカ、吠えないのか?」

pnu2005-04-29


ベルカ、吠えないのか?200504下旬文芸春秋\1,785


たった三頭のシェパードと、一頭の北海道犬からすべては始まった。日本軍に遺棄された彼らのある者は戦死し、
残りの者たちはアメリカに引きとられ、子孫を残すが…。
 
これは犬好きにはちょっぴりつらい本だ。
なぜなら、犬が犬をレイプし、犬が同属や人間を殺し、
喰い、戦う物語だからである。ゆえに私はこの世界を
愉しむことに失敗した。
 
この、少数の個体から発生した子孫が何代もの世代交代を
経て再びあいまみえるという構図に鈴木光司「楽園」を、
オンライン書店ビーケーワン:楽園1996.1新潮社\540

そして戦時中のエスカレートする冷酷さと性の狂乱には
打海文三「裸者と裸者」を思いうかべるかもしれないが、
オンライン書店ビーケーワン:裸者と裸者 上2004.9角川書店\1,575

本書におけるイヌの扱いはそれらの本における登場人物よりも
さらに悲惨なものとなっている。
 
なぜイヌたちは悲壮な生を生きるのか。それはイヌの哀しさ、
人間にかしずかなければならないことだ。
ヒトの手を離れた幸運なイヌですら、発情期の興奮から
ヒトの元に舞い戻ってしまう。
人間によって作られた純血を嫌って雑種に励んだイヌですら、
再びヒトの手に堕ち道具として使われていく。
自らの意志で戦うのでもなく、主人の命じるままに憎悪もなく
ヒトを殺すイヌが哀れであった。
 
このイヌを駆るヒトどもに魅力があればいいのだが、
大主教もヤクザの嬢も、私は好きになれず…。
イヌパートだけならばもっと好きになれたかもしれないと思うと残念。

p.s.アイスちゃんとグッドナイトのエピソードは好きだ。
たとえそれがグロテスクなものであっても、彼女たちは自分の生を
全うできた幸福なイヌだった。おそらく。