東野圭吾「黒笑小説」
2005.4集英社\1,680
突然見るものがすべて巨乳になったら?
はたまた文壇の腹黒い実情などなど、SFちっくなネタから
リアルなホラーまで、ドライでブラックな笑いてんこもりの短編集。
ははは、面白い!著者の浪花節系泣かせ小説はピンとこない私でも、
本書はめちゃくちゃ楽しめた!
「奇跡の一枚」だけは途中でオチがわかってしまったが、
良質なコント番組を見ているかのような気分で、
読めばニコニコの1冊なのである。
「ダウンタウンのごっつええ感じ」みたいな笑いが好きならば
本書をおすすめしたい。
笑いと言ってもただ可笑しいというのではなく、そこには悲惨な
ほどモテない男の叫び(「モテモテ・スプレー」)だとか、
身近な者ののワガママに振り回されまくったり
(「ストーカー入門」「臨界家族」)、
不条理な人生の悲哀がアクセントを加え、ただのライトな
コメディでは終わらないのだった。さすがベテランの筆!
ちょっぴり超自然テイストの入った「巨乳妄想症候群」は
男性ならばチクリと来る内容でまさに黒い笑いを誘う。
「インポグラ」「みえすぎ」異様な状況をテンポよく描いて面白い。
「シンデレラ白夜行」は、あの「白夜行」を連想しつつ読むと楽しい。
そして「もうひとつの助走」「選考会」のように文学賞に心乱す
作家や、濫造される新人作家の裏側を皮肉たっぷりに垣間見せる
「線香花火」「過去の人」がこれまた素晴らしい。
カバー写真までもが痛烈な皮肉となっている、頭からしっぽまで
アイロニーのギュッと詰まった濃い本だ。