読書日記PNU屋

読書の記録

我孫子武丸「弥勒の掌」

pnu2005-04-28


弥勒の掌2005.4文芸春秋\1,850

関係の冷え切っていた妻が失踪し、夫の辻に疑いがかかる。
一方、刑事・蛯原は妻を何者かに殺害され、復讐に燃えるのだった。
見え隠れする新興宗教の影に、辻と蛯原は…。
 
多くを記すとネタバレしそうなので省くけれど、
やっぱり好きだなぁ、鮮やかだなぁというのが読後の思い。

辻(しんにょうは点ふたつだが変換できなかったのでこの字で
代用させていただいた)にしろ蛯原にしろ、決して好かれるような
キャラクターではない。辻は教え子と関係を持ち、
妻との冷えた関係を修復もせず、当事者のくせに傍観者的態度を
とる醒めた男。
蛯原は、妻を愛してはいるがその愛はどこか独善的で、
ヤクザともつながりのある汚職刑事である。
そんな2人だからこそ、あのラストが納得がいくというものであろう。
 
ストーリーは単純にも見えるけれど、そこをシンプルでなく
魅せる力が、やはりこの著者らしいと感じた。
 
我孫子武丸スペシャル・インタヴュー」も収録されていて、
作品論・創作論などがたいへん興味深く面白く思った。