読書日記PNU屋

読書の記録

町田康「告白」

告白告白
町田 康

中央公論新社 2005-03-25
asin:4120036219

Amazonで詳しく見る


 河内十人斬りを起こすに至った熊太郎の人生を幼少より丹念に書き起こす!内面描写がリアルかつすさまじい衝撃の文学。
 
 かのクラシックミステリ「八つ墓村」の元ネタである岡山三十人殺しは知っていたけれど、寡聞にして河内十人斬りは知らぬ私であった。こんな事件が実在し、河内音頭にまで唄われているとは。なんだかマザー・グーズになったリジー・ボーデン事件みたいね。
 この河内十人斬り、動機だけから見ると金と女というまことに陳腐なありふれた理由で起こったらしいのだが、それが町田康の手にかかればあら不思議、高等な頭脳を
持ちながら肉体礼賛主義の農村に生まれ落ちてしまった男の孤独と苦悩がこれでもかと読者の胸にせまるではないか。この饒舌さ。人とのコミュニケーション媒体であるはずの言葉。その言葉が頭脳にあふれるたびに、主人公・熊太郎がより一層孤独になっていくというパラドックスがたまらない。
 多くの疑問を残しつつも、積み重ねられた恨みが激流となって噴出するクライマックスは圧巻。殺人を犯す時の、どこかファンタジックで夢の中のごとき思考の流れにも
魅せられた。常識から考えればメチャクチャであっても、犯人には犯人だけに納得しうる理屈があるのだろうか。傑作。