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読書の記録

畠中恵「とっても不幸な幸運」

とっても不幸な幸運とっても不幸な幸運
畠中 恵

双葉社 2005-03
asin:4575235199

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 「酒場」という名の酒場で、常連とマスターたちは長年友情を築いて来た仲。あるとき持ち込まれた100円ショップの缶「とっても不幸な幸運」を店内で開けたところ、世にも不思議な現象が…。
「のり子は缶を買う」「飯田はベートーベンを聴く」「健也は友の名を知る」「花立は新宿を走る」「天野はマジックを見せる」「敬二郎は恋をする」を収録。
 
 「しゃばけしゃばけ (新潮文庫)シリーズは好きだったのだがだんだんマンネリズムをおぼえ、「百万の手」百万の手 (創元推理文庫)はちぐはぐ感が性に合わず、「ゆめつげ」ゆめつげはそこそこ面白いがやはり「しゃばけ」系の味付けであるなぁ、と注目してはいるが複雑な気持ちをこの作家さんに抱いていた私。さて新作は…?
 バーのマスターが謎を解く、美味しい料理描写満載と言うと北森鴻のバー・香菜里屋シリーズ花の下にて春死なむ (講談社文庫)を連想するが、こちらの常連客はもっとがらっぱちでワイルドだ。人の生き死にまで賭け事のネタにしてしまい、それでいて恬淡と恥じるところがないのだから、
畏れいる。眉をひそめながら読みつつも、いつしか「酒場」の常連たちに親しみを感じてしまうのが作者の技だろうか。 
 不満を言えば、ややファンタジーとミステリーのバランスが良くないように思った。開けると不思議な現象を起こす缶が平然と売られ続けているのに、謎大好きな常連客たちが製造元を追究しないのが一番の謎ではないか。ファンタジック。
 人の生き死にがかかわってくる話になると、私には命の重さとファンタジー部分のふわふわ感がマッチしないように思えたので、「天野はマジックを見せる」のように基本はリアルでいてサプライズのある話が好みであった。他の話は、多少とも全てどこか共感しきれぬ気持ちを抱いてしまったのであった。

p.s.本当に「酒場」があったら行くか?私だったらご遠慮しておく…。