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読書の記録

海月ルイ「十四番目の月」

十四番目の月十四番目の月
海月 ルイ

文藝春秋 2005-03
asin:41632378012795

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 娘を誘拐された樹菜は、誘拐犯に振り回される。一方、身代金受け渡し現場に居合わせたピアニスト・奈津子は誘拐事件を調べ始めるが。
 
 サスペンスフルな筋立てながら、いまひとつ楽しめなかったのは幾つか理由がある。 まず、これは伏線が丁寧と言い換えることも出来るのだが、真相および結末が半ばで予想出来てしまうこと。文章に滋味のないミステリにはありがちなことで、限られた登場人物しか出てこないわけだから、犯人も早くから絞られすぎてしまうというわけ。
 樹菜の視点で始まっておきながら、樹菜の至らなさ、愚かしさを文面から感じ取れる以上に登場人物の台詞によって強調してみせることも、後の展開を大きく予見させる。
 そして、偶然や都合の良さが鼻についてしまうこと。小説の中の偶然は、よほどうまく描写されていないと作り物めいて見えてしまう。奈津子が事件に首をつっこみ素人探偵となるのもやや不自然だし(ラストを読めばああそういうことね、とは思うが)、タクシー運転手が、あんな出会い方をしておきながら奈津子に肩入れしてくれるのも、やや疑問。その辺の設定がもう少し自然に出来ていればなぁと思う。

 「プルミン」プルミンでは子供と音楽、「烏女」烏女では母子家庭と働く母がモチーフであり、本作もまた働く母と子が取り扱われていて、そろそろ違う題材を扱ってくれてもいいのでは?と思う。
 エンターテインメントとして読みやすいし、カタルシスもそこそこあるのだが、子供ほしさにこだわって筋を引っ張るところは必要とは思えないし、悪目立ちする樹菜をのぞけば強烈な登場人物もいなかったので、読後満足度はあまり高くはなかった。

p.s.すっきりしないのは、あの人が憎いのはわかるけれど、あの人の娘も思いっきり不幸になてるんですけどそれはいいわけ?ってこと。子供好きなんだったら、ねぇ。