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読書の記録

角田光代「人生ベストテン」

人生ベストテン人生ベストテン
角田 光代

講談社 2005-03-02
asin:4062128101

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 大人の男と女、もしくは女と女が出会うとき、そこにはドラマが生まれる。リアルでちょっぴり妄想質な短編集。
 
「床下の日常」で描かれるのは傍観者の気楽さ。すれ違い、おそらくこれ以上は深くならぬ関係と思えばこそ、親しい者には隠し通す弱音もついついチラリ出てしまうのだろう。
 
「観光旅行」女たちは誰もが自分のことでいっぱい。終わりつつある恋に悩む女性と、母子関係に悩む女性が出会うのだが、彼女たちはそれぞれ自分がヒロインのドラマを生きており、他人の都合など知ったこっちゃないのである。そのはずなのにどこか通う連帯感は、イタリアという非日常ゆえか。
 
「飛行機と水族館」では、善意が異常性を獲得していく不思議が描かれる。これは私にはよくわからない心情だった。おせっかいが過ぎるということかしら。理由がわからないところにこそ、何か主人公であるところの男の心の疲労みたいなものが表れているのかもしれぬ。
 
「テラスでお茶を」マンションを買おうと探す女性。他人の頭の中では、日々このようなプチ妄想がはてしなく繰り広げられているのかもしれない。おそろしや。
 
「人生ベストテン」は、人生の衝撃の出来事ベストテンを選ぶ趣味を持つ女性が、同窓会で意外な出会いをする。このいい加減さこそがまさに人間らしい。繊細さと図太さと、相反する性質を包含しながら、しぶとくもつつましく生きる女性の強さよ。

「貸し出しデート」では、十年の付き合いを解消し、ひとりとなった女性が若い男と一日デートをする。実はこの女性の状況が私とそっくりで冷や汗ものであった。別に離婚してもいないし男も買っていないけれど、夫としか出かけたことのない主婦って私のことですか、と。 人生何事も経験なのだろうか、そんなことを思わされた。

…読んできて、全体的に強烈なことはないのに、どこか読者の心の深いところに根を下ろすような不思議な短編集だと思った。それは日常がいかにもありえそうにリアルに描かれているせいもあるし、登場人物の心の動きがテンポよくいきいきと描かれているせいでもあろう。ライトに楽しめるが、読み方によっては深い1冊なのかもしれない。

p.s.先日、直木賞受賞で話題の「対岸の彼女対岸の彼女を読んだのだが、お別れの台詞が「バハハーイ」だった。今度「人生ベストテン」を読んだら、また別れの挨拶が「バハハーイ」であった。流行ってるのか、「バハハーイ」!それとも著者のマイブームなのか??