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読書の記録

山本弘「詩羽のいる街」

詩羽のいる街詩羽のいる街
山本 弘

角川グループパブリッシング 2008-09-25
asin:4048738844

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 不思議な女性、詩羽は“わらしべ”方式でみんなをハッピーにしていた…ポジティブな連作集。
 事前情報をシャットアウトして読んだんで、まずバリバリのSFじゃなかったことに驚いた。ヒロイン詩羽が「(人間関係の)歯車が見える」設定がSF的と言えなくもないが、地に足のついたファンタジーなのである。いや、理想社会、ユートピアものと言うべきか。
 性善説をベースにしたいい話で、半ばほどで読者の中に頭をもたげるであろう疑問…デモ、ヨノナカワルイヤツモイルシ、ってのを第三話で打ち砕いてみせるタイミングが見事と言うより他はない。
 だが、展開には疑問もある。悲観的にすぎるかもしれないが、たとえ詩羽が実在したとしても現実社会はユートピアにはならないだろう。言葉をしゃべるだけではくて、その内容を理解する能力がなければユートピアは作れない。詩羽も言う通り、「論理的」な思考を持っていなければ、詩羽方式はたやすく怠惰や意地や愚鈍によって無視され裏切られてしまうだろう。私はそんなネガティブ・シンキングの持ち主であるが、それでも“「どうしようもない」とあきらめてしまえば、変わる可能性を放棄することになる”という詩羽の主張にだけは賛同しておきたい。
 詩羽の紹介する思想は特別新しいものではないが、それは巻末の参考資料を見て納得。
p.s.同ネタ多数だろうが、詩羽は善意の擬人化キャラな気がした。
また、詩羽をパワーアップさせると梶尾真治穂足のチカラ穂足のチカラになるんかなあと思ったり。