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読書の記録

恩田陸「きのうの世界」

きのうの世界きのうの世界
恩田 陸

講談社 2008-09-04
asin:4062140616

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 塔のある街で、一年前に失踪した男が死体となって発見された。彼はなぜその街で死んだのか…ミステリアス・サスペンス。
 死んだ男と舞台となる架空の街の不思議を軸に、複数の視点から物語が展開していく。が、読み終えてみれば、いつもの恩田陸作品である。始まりは素敵に謎めいていて、拡がりはわくわくさせてくれて、終わりはいくばくかの拍子抜け感に襲われるという。ちょっとした挿話が妙に印象に残るのもいつも通り。
 私的には、この結論でここまでのボリュームが必要なのか疑問だ。いつもこの著者の本を読むと謎めいた雰囲気にぐいぐい引き込まれ、ラストはともかく途中までは世界一面白いと感じるのだが、今回はそれがなかった。あ、オチのガッカリ感は…(以下自粛)。
 人死にと謎解きがあるので広義のミステリー小説として読むこともできるが、最後まで明瞭には説明されないスーパーナチュラルな事象が頻発したり、死が少々無理めに訪れたりするので論理的にかっちり読もうとすると不満が残る。現実と地続きの非現実を味わうために、恩田陸の不思議小説として漠然とした不安漂う雰囲気を味わうのがよいかもしれない。私が見た本書の姿はミステリーに擬態したファンタジーだった。
p.s.ムード的には「月の裏側」月の裏側 (幻冬舎文庫)に近いかな。アレがもっと現実寄りにオチるとこうなるみたいな。