谺健二「肺魚楼の夜」
肺魚楼の夜 谺健二 光文社 2008-08-21 asin:4334926231 Amazonで詳しく見る |
震災で家族を喪った老女と少女は文通を始めるが、肺魚の怪物が襲ってきて…?タイムスリップに消える巨大肺魚の謎を探偵・有希は解けるか。
ありえそうもない奇怪な謎を最初に提示して、その謎を現実的に解いてゆく推理小説スタイルは島田荘司直系だなあと思う(著者本人の心持ちは知らないけれど…)。
本作は「未明の悪夢」に始まる阪神大震災をテーマのひとつにしたミステリ・シリーズである。「赫い月照」であの人をなくしたあとの有希の心中が語られ、ファンには興味深いだろう。
だがしかし、社会派と猟奇本格派のハイブリッドのような本書は、読んでいてどこか座りが悪い。謎の提示部分で、二人の女性が文通する場面が妙に間延びしているというか、緊迫感がないせいかもしれない。
そして、やはり謎の解明部分が拍子抜け。大きなトリックの一つはすぐに予想がついてしまうし(つーか、それしかありえないし)、いくら暗くても大の大人がまさかそんなもので…と思わざるをえない。あと、これちょっとアンフェアじゃね?少なくとも、謎の一つはぼかされなければ謎でもなんでもないんだから、さ。
ミステリーは謎が魅力的であればあるほど、解明後に色褪せて見えたりするものだが、そこら辺を考慮してもどうも成功しているとは思えないのであった。
p.s.謎の黒ずくめ男につけられる主人公が、そいつを黒猫なんて言い始めるところが謎。私が見た範囲ではその男の見た目や仕草が猫っぽいという描写はなかったと思うのだが…黒ずくめなだけだったら、黒犬でも黒熊でも黒豚でも黒馬でも水牛でもいいと思う。