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読書の記録

桐野夏生「東京島」

東京島東京島
桐野 夏生

新潮社 2008-05
asin:4104667021

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 夫婦が難破してたどり着いたのは無人島だった。さらにそこへ若者たちが流れ着き、島は混沌の様相を呈していく。
 若い男たちの中に四十代の女性がひとりという設定にエログロなのでは?と恐怖したけれど、ヒロインのしたたかで打算的な性格もあってそれほど生臭くはならず一安心。外界からほぼ閉ざされた島で煮詰まる人間関係がスリリングで面白い(とくにドゥーベン)。もっとヒロイン清子の老残が描かれていくのかと思えば、「グロテスク」グロテスク〈上〉 (文春文庫)で老醜を扱ったせいかそれはなし。
 時折スーパーナチュラルな要素が混ざるのはやや残念だが、できすぎとも思えるそれぞれのラストが強い印象を残す。
 人の数だけ真実があり、個々の心の王国を満たすのは果てしない自己満足なのか…読了後、そんなことを思った。

p.s.最近こんな本を読んだ私としては、紙なき島で人々が何で拭いていたのかがもっと語られてもいいのではと思った。
p.s.その2.ちょっと本作は、ヒロインに甘すぎるのじゃないかなあ。
「I'm sorry,mama」I’m sorry、mama. (集英社文庫 き 16-2)でもそうだったんだけど、展開がヒロインに都合よすぎるところがあり、そこは興ざめ。
p.s.その3.「グロテスク」は(非常に面白い作品なのだが)現実のT電OL事件にインスパイアされた部分とオリジナルストーリー部分の継ぎ目処理が巧くなかったように感じられたのだが、本書は最初っから性的活動期ティーンの妄想みたいな設定で始まるゆえに、そういった現実との継ぎ目の不自然さは感じられなかった。現実にモデルケースがある小説の場合、この著者の作品でしばしばある幻想味濃いラストに煙に巻かれたような感想を持ったものだけれど、本書のように徹頭徹尾空想であると出来すぎなラストさえもよくハマっているように思える。