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読書の記録

馳星周「弥勒世」上・下

弥勒世(みるくゆー) 上弥勒世(みるくゆー) 上
馳 星周

小学館 2008-02-21
asin:409379782X

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弥勒世(みるくゆー) 下弥勒世(みるくゆー) 下
馳 星周

小学館 2008-02-21
asin:4093797838

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 基地問題に揺れる沖縄で、世界を変えたいとあがく男たちの奮闘を書く小説。

 ううう〜ん、感想が書きにくい小説だな。現実の沖縄基地問題に詳しくない自分には、あくまでフィクションの、しかもエンタメ小説として見た感想しか書けない。
 主に三人の男たちが或る計画をたてるのだが、一人を除いてそれは愛国心や義侠心からでは、ないのだった。舞台は返還前の'70年代の沖縄であるが、そのころからこのような人間は存在したんだろうか?主人公とその親友は、たぶんに現代的であると思う。
 主人公・尚友が登場したとき、なぜか「不夜城」を思い出してしまった。よくよく考えたら、誰も信じず口先だけで渡り歩いていく生き方がきっとかぶって見えたのだろう。
 私が本書を楽しめなかったのは、主人公の甘さ(不夜城の健一に比べたらずいぶん甘ちゃんに見える)と、ヒロインたちの陳腐さであろう。もともと女性キャラに魅力のある著者ではない(男性キャラの魅力でナンボだ…と、私が勝手に思っている)のだけれど、純情なだけの仁美もグレた愛子も自分には惹かれるものがなかった。
 主人公は、自分の虚無感を×××をどこかで落としたせいだ、としばしば振り返るのだが、これが抽象的すぎてよくわからない。家庭環境に恵まれなかったとか、父親との確執はほのめかされるのだけれど、だから、いったい何があったのだい?と思ってしまう。一体、君は何がしたかったのだい?本書はそんな男の愚かさを書く小説だったのかもしれない。
p.s.装丁はめちゃんこ凝っていてステキだなあ。黒と銀の地に盛り上がった箔押しが効果的。