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読書の記録

桜庭一樹「私の男」

私の男私の男
桜庭 一樹

文藝春秋 2007-10
asin:4163264302

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 花のおとうさんは最低だけど最高…禁断の恋愛サスペンス。

 この本を読みたくなかった。なにしろ潔癖症の自分のことだからインセスト小説なん か読んだって、不快になるに決まっている。それでも「本の雑誌12月号」などでの評判の良さにぐらつかされて読んでしまった。
 結果、予想通り不快にはなったし花もその父も、誠意があるようでいてない新郎も好きにはなれなかったが、読者の興味をひくことにかけては、よくできた小説ではあると思う。好悪は別にして。
 しかし、ヒロインの男は名字(腐野と書いてクサリノ。ありえねぇ〜)にふさわしい性根をした、ものすごい身勝手な野郎である。
 この小説は女の子がお父さんを心底好きなように設定してあるから幼女凌辱の陰惨さは薄まっているけれど、それでも二人の関係の生臭さと気持ち悪さは消せない。
 それは二人の関係が(16という年齢差を除外しても)対等ではないからだ。生物的肉体的、経済的にも社会的にも彼女の方が彼より立場が弱いし、選択の余地すらなかった肉体関係である。
 ポルノとしてみるか、あるいはよほど厚顔無恥でもなければこんな関係は是とは言えないし、ロマンをそこに見ることもできない。そのあたり(一般女性が感じるであろう嫌悪)は小町の章に詳しいが。
 この小説、過去にさかのぼってゆくもんだから、一番知りたいことはわからないままなのな。予想されることを確認していくだけなんで、進むにつれ興味はそがれてしまった。
 過去に日本で実際にあった父娘の恋愛事件がもっとすさまじい(父親と肉体関係にされた娘が、他の男性と結婚したくて父を殺害した事件)だけに、本書には生ぬるさ(官能的妄想っぽい奇妙な非現実感。たとえば北から彼が訪ねて来るシーンだが、押入れじゃあ夏に1日と我慢できるものじゃあないよ)を感じる。
 こんなストーリーきれいすぎる。過去よりも、彼と彼女のその後をこそ知りたかった。

p.s.しかし「本の雑誌」K氏よ、≪淳吾≫じゃなくて≪淳悟≫だろ。名前間違ってんぞ。


 時間がたって冷静になったので不満点追記。未読の人は見ちゃダメ。




 で、花とおとうさんは別れるわけなんですけど、そこをこそ知りたいのね。
 その心の機微が。
 二人は運命的に出会うべく出会って、倫理とか法律も越えて愛し合いましたぁ、ってのはわかったけどさぁ、じゃあなんで別れたんだよ。


 父も子も互いに、肉体関係をつづけるために他人まで殺しておきながら、なぜアッサリふつうに幸福になろうなどと思えるのか>花
 その精神構造があつかましいわ。
 べったり肉体も精神も依存しておきながら、お互いに離れようと思った理由が、そのときの心の動きが、漠然としか示されていないでしょう。それを知りたいんだ私は。
 花と淳悟が(用心して反転)★実の親子★であるところは、★殺人★のシーンでドラマチックに明かされるわけだが、これがサプライズなし。だって★義理★だったら生物的には全然オッケィなわけだから、さ。


 でもこの作品が男性読者に気に入られる理由は想像できる気がする。だってさ、ロリで従順で観念的には★おかあさん★であり肉体的には★★でもある女と姦るってことは、エレクトラ兼エディプスコンプレックスの融合体なんだから、タブーシチュエーション萌えの極致っしょ?
 
 
 インセストに目をつぶったとしても、赦せない点がある。だったらなぜ、花に「わたしは汚れている」と言わせた。なぜ。愛している家族と肉体関係を持つことを彼女が疑っていないなら、出てこないはずのセリフではないか。冒頭のシーン(婚前)への伏線ともとれるが、それにしても不自然。
 そして田舎の閉鎖的な町(周囲の関心が強く、放っておかれない)で、花はいつ性知識を得たのか。「自分が汚れた」発言をしているところからして、淳悟とのセックスが異常なことであると知ったのはいつどこでなのか。
 そして淳悟が、すでに花に生理がきていることを知りながら避妊をしていないことが描写されるが、これも怖すぎ。最悪。最低。淳悟が最高どころか下の下な男であることを示していると思うが。こんな最低男だから、嫁ぎたくもなるという、これまたほのめかしであったのか。
 とにかく、淳悟のおぞましさにげんなりしてしまう。彼は早いところ精神科へ行くべきだったと考える。そうしたらこの物語は成立しなかっただろうけれど。