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読書の記録

恒川光太郎「秋の牢獄」

秋の牢獄秋の牢獄
恒川 光太郎

角川書店 2007-11
asin:4048738054

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 どこか懐かしい世界観の幻想小説短編集。

 表題作は、秋の同じ一日を繰り返す怪奇にみまわれた大学生の物語。作中にもグリムウッドの「リプレイ」リプレイ (新潮文庫)が出て来るし、北村薫「ターン」ターン (新潮文庫)乾くるみ「リピート」リピート (文春文庫 い 66-2)やコレ七回死んだ男 (講談社文庫)など時間牢獄モノは先例が多数あるが、そこはかとなく悲しく、むなしさの中にかすかな希望が光る味付けが絶品。

「神家没落」ある家に迷いこんでしまった男の物語。
 しのらさとしの漫画にも同ネタがある。マヨヒガものだが、引きこまれるような磁力を持った語りがさすが。これでいまだ三冊目とは、後生おそるべし。
本書の三編の中では、私はこれが一番好きだ。こんな家で、のんびり夫婦で暮らしたいものだ。一緒に出かけられないことだけが難だが。

「幻は夜に成長する」不思議な幻を生み出す女性の物語。
 急に生臭い展開になるけれど、なんともいえぬ苦い読後感が残る。

 次回作が待ち遠しい幻想恐怖小説の新星と言えるだろう。夏雷の季節の終わりに、秋(本書)と来て次回は冬かしら。