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読書の記録

川渕圭一「研修医純情物語」

研修医純情物語―先生と呼ばないで研修医純情物語―先生と呼ばないで
川渕 圭一

主婦の友社 2002-06
asin:4072337382

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 副題「先生と呼ばないで」。
 医師を父に持つ工学部卒の社会人が、身内の不幸を契機に医療の道へ踏みいる自伝的小説。

 著者はあとがきで謙遜しておられるが、平易かつ軽妙な文章で読みやすい。
数年前の本だが、近年話題になっている、いわゆる「立ち去り型サボタージュ」の問題も大きく取り上げている。
 驚いたのは、カンファレンスより病床にいることを選んだり、主人公の行動が型破りなこと。私がかつて在籍していた大学病院では、たとえ人情としてはそうしたくとも、上の目が恐ろしくて出来ない。大学病院によっても差があるだろうが、医者の世界は体育会で上の命令には疑問をさしはさむことも許されず絶対服従だったものだ。もしも私がかつての職場で同じように行動したなら、オーベンに呼び出されて叱責されるか、変人もしくは世捨て人として徹底無視されたかもしれない。
 著者が医者らしくない、まっとうな人間観を保持しえたのは、社会人再受験で他の世界を体験してきたからではないだろうか。18,19で医学部に入り、狭い世界で養成されると、このような患者主体の発想は生まれにくいと感じる。
 何より感動的なのは患者さんや家族との暖かい交流だ。これぞ家庭医の醍醐味、であろう。

p.s.小説ゆえ脚色もあるかもしれないが、新見医師の意地悪度なんてチョロいチョロい。私は自分の失敗を一年目の研修医になすりつけようとした医者を知っているよ…。下田医師はいかにも出世しそうだねえ。医学部時代の物語もぜひ読んでみたく思った。