読書日記PNU屋

読書の記録

平山夢明「他人事」

他人事
他人事
平山 夢明

集英社 2007-10
asin:4087748812

Amazonで詳しく見る


 シュールかつグロテスクの極みを見せつける短編集。

 今回の短編集はより不条理性が強まり、ゆえに読んだ者の頭脳に長く強烈に焼き付くことだろう。
 表題作は日常をふと望まずして飛びこえてしまった男が一種の諦観に至るまでの、すれ違いどたばた悲劇だ。ラストが救いにすら思えるほど、この世は不条理にあふれている。
「倅解体」息子殺害を決意する父だが。妻のずれた会話が妙にリアルでひんやりと怖い。なにより怖いのは、ラストはともかく冒頭のような状況にある家庭がこの国には少なくないであろうこと。
「たったひとくちで…」ねじれた誘拐サスペンス。棘がぞくりと余韻を遺す。
「おふくろと歯車」清く悲しいロードノベル。ああ、ふみにじられる純情よ!
「仔猫と天然ガス」視覚的で、教訓に富むヴァイオレンスホラー。
「定年忌」筒井康隆「銀齢の果て」など類する設定には先例があるが、絶望度は本作がピカイチ。
「恐怖症召還」超能力もの。地獄さ迷う本書の中ではかなりキュートな作品。
「伝書猫」チサが愛するサチは白い猫だった…まさに小説ならではの技巧こらされた作品。
「しょっぱいBBQ」安い幸せはたやすく失われる。戸梶圭太の一連の激安シリーズに共通した味わいがある。
「れざれはおそろしい」学校のいじめが告発された…?悩む教師たちだが。教師たちのまわりくどい、腫れ物にさわるような対応がすごくリアル。
「クレイジーハニー」SFノリが素敵だ。変態、身を滅ぼすということで。
ダーウィンとべとなむの西瓜」物悲しい作品。「狂気の構造」によれば作中のダーウィン賞は実在するそう。
人間失格」他人事という短編集に大変ふさわしい作品。
「虎の肉球は消音器」文字どおりの作品。男三人の奇妙な友情が印象的。