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読書の記録

小川洋子「夜明けの縁をさ迷う人々」

夜明けの縁をさ迷う人々夜明けの縁をさ迷う人々
小川 洋子

角川書店 2007-09
asin:4048737929

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 ちょっと不気味で不思議な怪奇幻想短編集。

「曲芸と野球」野球少年と曲芸師のひそやかな、しかし確かな交流。子供にしか通じぬ虚勢が物悲しくて、人はそうたやすく他人を救えたりするもんじゃない、そんなことわかっているのだけれど、それでもせつなさを感じる作品。ただラストはやや不気味にも思える。
「教授宅の留守番」とてもブラックな作品。悪夢的状況の中、徐々に見えてくるものが恐ろしい。生理的嫌悪感あおる、素敵に不気味な物語だ。
「イービーのかなわぬ望み」利害からまぬ純粋な好意きらめく、フリークス純愛物語。悲しくも美しい。
「お探しの物件」少し奇妙な不動産屋の物件とは。物件により長短があるのが気になるが、ヘンテコ好きにはたまらぬ奇天烈ぶりに痺れた。
「涙売り」特別な涙を持った女の恋。ちょっと頭で考えすぎたような話ではあるけれども、童話チックな残酷と不条理に溢れた作品。
「パラソルチョコレート」これもひそやかな交流もの。どこかのどかな雰囲気がいい。
「ラ・ヴェール嬢」何が本当で何が嘘なのか、めくるめく官能的恐怖小説。かなり傑作。
「銀山の狩猟小屋」秘書が可愛い。椎名誠作品のような、現実にはありえぬ生物を読むのが好きな人には超オススメ。
「再試合」乙女的野球観戦。最初も野球なら最後も野球か。バリー・ユアグロー風の味わい。

博士の愛した数式博士の愛した数式 (新潮文庫)がベストセラーとなった著者だが、あのようなベタ(と言って悪ければ、王道)な話よりも本書のような奇想天外なシチュエーションにおいてリアルに人間の本質をえぐりだす作風こそが真骨頂であると、私は勝手に思っている(スーパーナチュラルな状況であればこそ、なおさらそこが強調される)ので、またこの路線の新作を期待したい。