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読書の記録

岩井志麻子「匿われている深い夢」

匿われている深い夢匿われている深い夢
岩井 志麻子

講談社 2007-08-24
asin:4062142244

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 男と女が出逢い、悲劇が生まれる。人の業をさらけ出す十編の短編を収録。

 私の中では、岩井小説の久々のヒット。美醜にこだわる女、男にふりまわされる女、何かと張り合う女…理由や過程は違えど行き着く先、終着点は全て悲劇である。十編の全部に人死にが出るヘヴィな本だが、著者お得意の幻想味(現実感を失わない程度の絶妙なさじ加減で!)が彩りを加えており、あまり陰惨な印象は受けない。
事件の中には幾つか現実にあった殺人事件が連想されるものもあるが、小説としてきちんと題材を消化/昇華させているので読みごたえがある。
 著者の最近の長編はあまりに私小説風に過ぎたりとか、幻想味が強すぎてリアリティを失ったりとか私には楽しめないことが多かったが本書は気に入った。
 人間のどうしようもなさ、愛欲、嫉妬、裏切りや打算や嘘を克明に描いた上で、そんな人間模様に悲しみにじませてみせる。凄惨な中にも一途な純情がある、そんな小説を堪能した。