渡辺球「べろなし」
べろなし 渡辺 球 講談社 2007-06-12 asin:4062140217 Amazonで詳しく見る |
べろなしの孫・啓太郎は次第に社会に疑問を持ちはじめるが…偽史、思想的架空戦記ものに入る物語といってよいだろうか。少年の目から見た、核兵器の落ちなかった日本、いまだ鎖国的軍国主義が続いている if の世界を書いている。
新兵いじめ、情報操作、秘密警察など過去にあったことを架空世界に当てはめているため、リアリティは出ているが、肝心の新味はない。古処誠二の戦争小説ほど感情を揺さ振るものもない。予想外のことがあまりなく、ラストが予想圏内にオチたのも残念だ。
ただ、悲惨な状況を生きる人に美しさがあるなど、この著者の作品には名状しがたい不思議な引力があるので次回作もぜひ読んでみたい。