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読書の記録

佐藤友哉「灰色のダイエットコカコーラ」

灰色のダイエットコカコーラ灰色のダイエットコカコーラ
佐藤 友哉

講談社 2007-06-01
asin:4062130637

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 北海道のある街で、覇王としてならした祖父をもつ青年がつぶやく狂気の野望の物語。

 超人的な祖父の教え、覇王になれ、肉のカタマリにはなるな…を守るために苦悩する主人公の独白を聞いているとかつて週刊で発行されていた「マーダー・ケースブック」のピーター・サトクリフを思い出す。そこでは連続殺人犯が肥大した自我と無能な現実とのギャップに引き裂かれながら、いつか世間を驚かせてやるとつぶやき犯行の機会を狙っていたものだ。本書もそんな頭でっかちな青年が出てくる。彼の場合は祖父から影響を受けすぎたので同情の余地がないではないが、ギャグと紙一重の彼の主張は読み手を困惑させてゆく。
 困惑はラスト最高潮となり、あれまあこんな結末のためにここまで引っ張ってきたのかい…と思うと少々残念だった。どうやら私は町田康「告白」告白のような内容を本書に期待していたらしい。そのような物語ではなく、突っ走る青くささと根拠なき思い込みと若さにまかせたお調子者の無軌道タレ流しが恥ずかしくも醜く、それでいて人生のある種の絶望と、その先にある諦観をとらえた作品であると言えるかもしれない。阿部和重シンセミアシンセミア〈1〉に近いか?
 しかし善人は恥知らずだわ悪人はかっこわるいわ、好きになれる人物が一人も出てこないという、ちょっと珍しい小説だった。
 キーワードとして「肉のカタマリ」という言葉が何度も出てくるが、これは岩明均寄生獣寄生獣―完全版 (1)で人類の捕食者が人を「肉の壁」と呼んだように、超越者でもなければ出てこない概念なのね。主人公は必死にこの概念を操ろうとするけれども、同種とのんきに交配しているようじゃダメだろうと。それを言うなら元凶のじいさんもなんぼのものかと思うね。

p.s.ツッコミ。コオロギの中身って白くない?あと目ん玉の中身は「硝子体」と書いて「しょうしたい」と読む。