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読書の記録

平山夢明「ミサイルマン」

ミサイルマンミサイルマン
平山 夢明

光文社 2007-06-19
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 稀代の鬼才・平山夢明の短編集である。
 日々本ばかり読んでいると凡百のストーリーに飽き飽きし、予定調和ばかりであくびが出てしまうのだが、この著者はそんな倦怠など一切なくときめかせてくれる貴重な存在である。ジャンルはホラーになるのだろうか、残酷にして、もの悲しい。空前の奇想が闇色をまといながら展開する様はファンには至福のひとときであった。

 各編の感想は下記に。 
「テロルの創世」SFでは定番のありふれた設定に見えて、無慈悲までに酷な世界が効いている。
「Necksucker Blues」これも悲恋ものと言えるだろうか、おぞましい中にも耽美さただよう作品。
「けだもの」美しい。本作中のマイベスト。平井和正「●●フ●イ」好きには萌えポイントに直球でツボだった。しかし、けだものよりも鬼畜な人間は現実世界にも多くいて困ったものである。
「枷」コレクターの物語。深い。「独白するユニバーサル横メルカトル」独白するユニバーサル横メルカトルのあの短編を彷彿とさせるが、マニアック度がUP、ブラッドベリの「●(ネタバレを防ぐため伏せ字)」を思わせる醜くも清冽な印象残すラストに衝撃を受ける。
「それでもおまえは俺のハニー」肉欲から始まる純愛もの。すえた臭いただよわせつつもすがすがしいのはなぜだろう。
「或る彼岸の接近」侵略もの。妻がつぶやく呪文にはホラーファンならピンとくるだろうが、実に【それ】らしい異形ぶりと名状しがたい描写がグッド。
ミサイルマンミサイルマンを聞く彼は…。元になった音楽はHIGH-LOWS。シゲ同様に私も好きだ。ミサイルマン
ミサイルマン

何より巧いのが、殺人者がクロレッツなんかをつまんでいるところ。血と脂にまみれながら、お口にはクロレッツ。このアンバランス感がたまらない。歪んだもの同士の友情が歪みきりながらも美しいのは、−×−=+ってことか。

 
 蛇足の感想を。本書で唯一個人的に不満なのは、折込チラシの惹句「無垢なる鬼畜・平山夢明」。まずは「無垢」と「鬼畜」について。平山作品は、おぞましい出来事を描いていてもどこか聖性を感じさせる。作品はスプラッタですさまじいまでの人体破壊描写があるが、それらは現実にも起こっていることであったりするわけで、そんな描写にも作者は殺すもののどうしようもない孤独だとか事象そのものに対する深い悲しみをこめている(と自分は読んだ)。どうしようもない世界に無力な生き物として存在し続けることの悲しみ。親が子を殺し、子も親を殺し、殺してみたいから誰かを殺す、果てしなく狂った世界が変わらないことへの深い悲しみが、作品の底流にあると思う。そんなわけで、「無垢」には条件付きで同意するが「鬼畜」には異をとなえたい。間違いなく「鬼才」ではあるが「鬼畜」なのは一部の登場人物だけであって著者には当てはまらないと思うから。


 表紙カバー画は惨殺された幻想画家ベクシンスキーによるもの。私としては異世界にイッてしまっているギーガー調より、現実と地続きながらゆがみと美しさを内包するベクシンスキーの方が、平山作品にはマッチする気がする。
ベクシンスキー
ベクシンスキー