木原浩勝「隣之怪 木守り」
隣之怪 木守り 木原浩勝 メディアファクトリー 2007-06-13 asin:4840118671 Amazonで詳しく見る |
「新耳袋」編著者のひとりが、封印してきた怪異譚を大公開。同じく編著者の中山市朗「なまなりさん」と同時刊行された怪談本である。この二冊を比較しながら感想を述べてみたい。実話怪談集の体裁をとっているけれども、無責任な読書の立場から“読み物”として評価させていただく。
たいへん評価は悩まされる結果となった。中山市朗「なまなりさん」は長編怪談で、祟りの成因から結末までを伝聞調で語ったものである。文章こそ流麗で臨場感があるものの、起きている現象がどこか既視感を覚えさせられてしまう。要するに、現象がホラーモチーフとしてありふれており、新味を感じないということだ。出来事がどこか大仰で、リアリティをあまり感じないのも私的にはマイナス点であった。
一方、本書は同じく実話怪談ジャンルではあるが、短編集なので「新耳袋」と似た形式である。ただし、ですます調を使い、省いてもよいと思える些末な描写を繰り返すことで、緊迫感なく散漫な印象を与えてしまっている。断言しよう、書かれている怪異自体は本書の方が少なく見積もっても十倍は面白い(=怖い)。だが悲しいかな、語り口の冗漫さのせいで、せっかくの絶品のネタが迫力を失ってしまっている。
読者のワガママを言わせてもらえば、中山市朗の語りで「木守り」を読みたかった、というのが正直な感想だ。世はままならないものである。
怪談雑誌「幽」に紹介された話があるのだが、同じ内容の話ながら雑誌掲載時より読みにくくなっているのは、一体どうしたことか。しかも雑誌で読んでコレこそ怖い、傑作!!と感じた話が収録されていないのも謎。
p.s.「なまなりさん」感想に追記。怪異とともに聞こえる唸り声については、怨霊の声とも文中にある通り×神(ネタバレを防ぐため伏せ字とする)ともとれる。唸り声の謎については、実話怪談の傑作漫画永久保貴一「恐怖耳袋」に詳しいので参照あれ。