読書日記PNU屋

読書の記録

松本人志監督/主演の映画「大日本人」


 笑いの鉄人・松本人志が監督および主演の「大日本人」を見た!映画の常として事前情報が少ないほど楽しめると思うので、詳しくはたたむ。

見終えての感想はとてつもなく豪華版の「ごっつええ感じ」だったと言っておこう。「ごっつ」のコントファンなら必見である。


 物語はひとりの男がインタビューを受けているシーンから始まる。その男こそ、主役の【大佐藤】である。彼はヒーローとして宿業を背負う孤独な存在だ。妻と娘は別居中で、ボロ家には飼い猫とも野良ともつかぬ猫がいるばかりである。そんな彼が、恐ろしい「獣」と戦うのだが…


(以下ネタバレに続く)




 大佐藤は巨大化して敵と戦う。だが、その姿は人間をそのまま巨大化したものではなく、どこかいびつでフリークスである。ジャミラを彷彿とさせる巨大化した彼は猪首で、コミカルな原始人のようでもあり、そのまなざしは石田徹也の描く画中の人物のように物悲しい。

 私は、周囲から迫害されつつ〈伝統の残骸〉〈滅び行く古きもの〉として生きる大佐藤の姿に、いつしか近所のおじさんを思い出していた。そのおじさん…いや、男性は、一人暮らしで、家中の壁を自作の不気味なアウトサイダー・アートで飾り立てていた。周囲から嫌悪・無視・迫害を受けながら、自分に誇りを持って生きるマイナー種族「大佐藤」は、そんなアウトサイダーであり、わびさびと孤高のにおいがする。


 「大佐藤」が戦う「獣」と呼ばれる存在は松本人志の面目躍如で実に気持ち悪くて人間くさい、生理的不安感あおりたてるデザインとなっている。これらの「獣」がリアルなCGでムニュムニュ動き回るさまは悪夢級の映像なので、ホラーファンにもおすすめである。

 インタビュアーの無神経と無理解、どう見ても「大佐藤」の給料をパチっているらしき女性マネージャー(彼女の飼っているアフガン・ハウンドの名が彼女が持ち合わせていない感情の名…シンパシーとデリカシーなのは傑作だ)の傲慢など、誰からも共感されず、資本主義社会における一個の消費される商品として存在する大日本人
それでも戦いながら苦しみ生きつづける彼の姿は笑いを通り越して、物悲しい。


 ラストの脱力は、狙ったものなのだろうか?映画っぽく始まってコントで終わるために、これではカンヌで受け入れられなかったかもしれないと思う。「ごっつええ感じ」ファンとしては、視聴率など数字にこだわる者への皮肉だとか、あいかわらず産卵シーン・フェチだなぁとか、コネタがきいていて楽しめたが。カンヌで評価されるためには、「とかげのおっさん」をリアルにハリウッド風リメイクでやったらよかったんじゃないかな。「ノートルダムのせむし男」とか「エレファントマン」みたいな
外見で差別され受け入れられない者の悲劇っていうのは映画の定番でもあるから、「ごっつ」のコント未経験の外国人にもとっつきがいいんじゃないかと思う。私が思ってもしょうがないんだけど。

 結論から言えば、ストーリーは度外視して雰囲気を楽しむ映画だと思う。いや、ロング・コントかもしれない。松本人志好きで、「ごっつ」のコントに燃えた人ならば
見て損はしないと断言しておく。


p.s.監督が生き物好きなのか、やたら意味なく猫や犬がフラフラしていてかわいらしかった。そんな意味では動物好きにもオススメの映画かもしれない。

大日本人オフィシャルガイド BRUTUS (ブルータス) 2007年 6/15号 [雑誌] GQ JAPAN 2007年 07月号 [雑誌]