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読書の記録

皆川博子「聖餐城」

聖餐城聖餐城
皆川 博子

光文社 2007-04-20
asin:4334925472

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 馬の腹に縫いこめられていた赤子・アディは略奪者と獲物として、富豪ユダヤ一族の子・イシュアと出会う。二人の若者の運命は戦争に蹂躙されるのだった。ドイツ三十年戦争を一兵卒の目から追うスリリングな1冊。

 とくにドイツに思い入れがない私であるが、たいへんに楽しめた。700ページを越えるボリュームを感じさせないくらいのページ・ターナーである。いつものドイツを舞台とした皆川作品(「死の泉」「総統の子ら」「薔薇密室」など)に比べオカルト風味や同性愛成分は薄めであるし、幻想的な部分とリアルな部分のバランスが絶妙なので、広くすすめたい。
 また、本書は人の性(さが)を考えさせられる作品でもある。自分の良心に忠実であろうとすることが、他者を傷つけることにもなり、面子をつぶすこともある難しさよ。あちらを立てればこちらが立たずの人間関係に悶絶するもよし、あまりの凄惨さに血の臭いすら漂ってきそうな戦争シーンに背筋凍らせるもよし、すれ違い、時にふれあいのもどかしい恋にときめくもよしの、1冊で何度でも美味しい物語である。