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読書の記録

久坂部羊「日本人の死に時」

日本人の死に時―そんなに長生きしたいですか日本人の死に時―そんなに長生きしたいですか
久坂部 羊

幻冬舎 2007-01
asin:4344980182

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 「破裂」破裂など医療サスペンスで知られる著者のエッセイ。長生きを無条件によいものとして推奨する風潮に疑問を投げかけ、病苦に悩む長命の悲惨な実態をこれでもかと書きつける本でもある。

 とある人の顔を「ネアンデルタール人似」とたとえるなど、この著者独特のブラックユーモアもあって好き嫌いは非常に分かれると思うが、老人医療に長年携わってきたからこそ言わずにはおれない現場のつらさ厳しさ、きれいごと否定は一読に値する…のかも、しれない。
 私の個人的感想を書かせていただくと、私はこの著者があまり好きではない。今までに出版されたフィクション本はこれまで(話題になっている、という理由で)すべて読んできたが、そこに流れる冷徹な人間観察には背筋寒くなったものである。現役医師でありつつ、こんなにクールでドライだなんて、いったいどんな方なのだろうか…そんなことを思っていたのだが、その疑問はこの本によって一部解けたようにも思える。善意が人を苦しめる矛盾、長生きの理想と現実に日々苦しんでいるからこそ、冷酷とも思える人間観が出来たのではないか。一読者として勝手にそんなことを想像した。